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「将来は看護師さんに」娘の夢をつないだ心臓移植

2023.10.28

「将来は看護師さんに」娘の夢をつないだ心臓移植 父は「移植医療への理解促進」訴え
臓器移植法に基づく累計千例目の脳死判定が28日、行われた。国内での臓器提供数は海外に比べてまだまだ少なく、移植を希望する患者の待機期間は長引いている。今年、心臓移植を受けた女の子の父親は、日本での移植医療進展を願い、社会での理解促進が大事だと話している。
長引く待機期間

両親と撮影に応じる五十嵐好乃さん(中央)=26日午後、大阪府吹田市(須谷友郁撮影)

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)に通う川崎市幸区の小学6年生、五十嵐好乃(この)さん(11)。「好きな色」というグリーンのネイルやカラフルなヘアバンドを身に着ける、おしゃれが好きな女の子だ。笑顔は明るいが、腕や脚はか細い。
好乃さんの体に不調が現れたのは令和2年6月、8歳のとき。風邪のような症状が出てから改善の兆しが見えず、検査を受けた。結果、心不全であることが判明。好乃さんは大学病院に緊急搬送された。翌年、下された診断は進行性の拡張型心筋症。移植手術をするしかなかった。
愕然(がくぜん)とした父親の好秀(よしひで)さん(46)だったが「やらないといけないことが、はっきりした」と、移植手術に向けて動き出した。日本心臓移植研究会のまとめ(昨年8月末時点)によると、国内の小児心臓移植症例の待機期間は117~1764日。小児用補助人工心臓「EXCOR(エクスコア)」を左心房に装着した娘に残された時間を考えると、国内で移植を待つのは「希望がある数字ではなかった」(好秀さん)。米国での心臓移植に望みを託した。
渡米準備中に日本でドナー見つかる
渡米には膨大な費用が必要だ。好乃さんの場合、円安の影響で約5億円にまで膨れ上がった。知人らが「このちゃんを救う会」を立ち上げ、昨年11月から募金活動を開始。今年3月に達成し、渡航準備を進めた。しかし好乃さんの体調が悪化。好乃さんはエクスコアを右心にも装着し、体重は約14キロにまで減少した。渡航は一時中断となった。
改めて渡航に向けて体調を整えている最中、夜中に病院からドナー(臓器提供者)が見つかったと連絡が入った。「提供者とその家族に感謝しかなかった」と好秀さんは振り返る。その夜は朝まで、夫婦で提供者家族の決断について話し合った。
手術は無事に終了。好乃さんは現在、同センターでリハビリを続ける。長い入院生活で歩行もままならず、リハビリ当初は泣き出すこともあった。今では自分の足で歩き、小学校への復帰を目指す。
感謝忘れずに
将来の夢は「看護師さん」。入院生活の中で、「(患者の気持ちを)私なら分かってあげられる」という思いが強くなったという。好秀さんは「まずは(人生を)楽しんでほしい」と話し、「いろんな人に助けてもらった。人に感謝する気持ちを忘れず、楽しいこともつらいことも2人分背負えるようになってほしい」と願った。
臓器移植法施行から26年が経過し、国内での脳死判定数が千件となった。好秀さんは「日本の医療は移植だけが進んでいない」とみている。
「臓器提供が絶対の正義だとは思わない。提供することも、しないことも、平等に扱われてほしい」と好秀さん。社会のなかで、臓器移植への理解を促進させることが重要だと語った。(吉沢智美)

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