産経新聞 東京朝刊 社会面 令和2年3月17日掲載
国内外の心臓病の子供たちを救う「明美ちゃん基金」(産経新聞厚生文化事業団運営)のミャンマー医療支援は、病に苦しむ子供への治療を通じて日本の医療技術をミャンマーに伝え、心臓病の治療ができる医療関係者を育成することを目的に行われてきた。柱はヤンゴンにある国立ヤンキン子供病院への医療団派遣と、日本でのミャンマーの医師らの研修だ。これまでの5年間の活動を振り返る。
「自国の力で」
医療団が初めて現地で活動を行ったのは2015年9月。以来計10回渡航し、273人にカテーテル治療を、95人に外科手術を無償で行った。治療した368人の医療費は日本円で計約1億円で全て基金が負担した。医療団には27病院から医師30人、臨床工学技士8人、看護師3人が参加。いずれも報酬なしのボランティアだ。
活動拠点のヤンキン子供病院はミャンマーの小児循環器治療の中心的施設だが、当時は技術的に体重10キロ以下の子供の手術は難しく、カテーテル治療は、その施設さえない状態だった。
「心臓病の子供たちはみんな人知れず、死んでいくしかなかった」。ヤンキン子供病院のキン・マウン・ウー内科部長(55)はこう説明する。
あれから5年。カテーテル室完成とともに医療団が基礎から指導を続けた結果、同病院のカテーテルの症例数は累計1200件を超えた。ウー部長は「難症例を除けば自国の力だけで大部分の治療ができるようになった」と手応えを口にする。
外科も同様だ。「この半年で120人の手術をこなしたんだ」。同病院のアウン・トウ外科部長(52)は胸を張る。最近は医療団とともに5キロ前後の子供に対する手術も行えるようになった。「医師団の指導のおかげで人材育成も進みつつある」といい、「今後はできるだけ多くの執刀を若い医師に任せ、私自身もより難しい症例に挑戦したい」と意気込む。
研修医が活躍
日本で研修したミャンマーの医師は計6人。成果はすでに花開いている。
18年10月から東京女子医大病院(東京都新宿区)で1年にわたりカテーテル治療などを学んだニン・レイ・ピュー医師(39)は今、ヤンキン子供病院で子供たちの治療などにあたっている。ピュー医師は「複雑な症例でも心肺機能の数値などを計算した上で治療方針をたてる方法を日本で学び、手に負えなかった症例にも今は自信をもって臨めている」と話す。
17年5月から約3カ月間、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)で研修したチュ・チュ・ソー医師(45)はヤンキン子供病院の集中治療室(ICU)の責任者として現場を仕切っている。「一人一人の患者との向き合い方が勉強になった」。ソー医師は日本での研修をこう語る。
地方に拡大も
3月で当初予定していた支援期間は終了するが、現地からは支援の延長を求める声が強い。基金は事業を2年間延長する方向で最終調整しており、これまでともに事業を行ってきた東京女子医大病院、国立循環器病研究センター、ジャパンハートと今後の方向性を検討している。
延長にあたっては、新たに同国中部マンダレーにある国立マンダレー総合病院での支援活動を追加。地方での検診や医療活動を通じ、より多くの子供たちの命を救う活動を行う予定だ。
基金の運営委員長を務める国立循環器病研究センターの川島康生名誉総長は「今までに368人の小児患者の治療を行うという大きな成果を挙げたが、残念ながら医療技術がいまだにミャンマーに定着したとまではいいがたい」と現状を説明。「支援の期間を2年延長し、国立マンダレー総合病院で医療活動を新たに開始するとともに、現地医療関係者への教育の充実と人材育成に一層の重点を置き、小児心臓病に対する医療を根付かせるため活動を継続したい」としている。