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見えぬ壁、バリアフリー社会へ「助け合うことできる」心臓病越え薬剤師になった男性の思い

2026.9.24

産経新聞 令和8年9月23日配信

国内外の心臓病に苦しむ子供たちを救う「あけみちゃん基金」(産経新聞厚生文化事業団運営)は設立から60年を迎えた。基金の支援を受け、薬剤師として働くようになった男性の歩みをたどり、バリアフリーや移植医療が抱えている課題を考える。

神奈川県にある薬局の調剤室で、白衣をまとった車いすの男性(27)が同僚に声をかけた。「その薬を取ってもらえますか」。快く応じた同僚が、薬剤を男性に手渡す。

「ありがとう」

男性は心臓病の闘病で下半身まひなどの後遺症などがあったが、薬科大学を卒業し、国家試験に合格した。この春、夢だった薬剤師となり、調剤薬局に就職した。

薬棚の高い位置にある薬は、車いすでは手が届かない。できないことは周囲に頼り、助けてもらったら必ず感謝を伝える。それが男性にとって、仕事を円滑に進めるための大切な習慣だ。

就職活動では苦労を重ねた。病院では、職員はエレベーターを使わず階段移動するという内部ルールのある病院も少なくない。一分一秒を争う救急対応が難しいことも障壁となり、多くの職場で受け入れを断られた。

男性が就職した調剤薬局は「車いすだろうと、薬剤師であることに全く問題ない」と快く受け入れてくれた。

多様性が潮流となり、社会のバリアフリーは進んでいる。しかし、見えない壁は依然として残っている。

数値達成が目的の企業も

厚生労働省の集計によると、令和7年に民間企業で雇用されている障害がある人は70万4610人、実雇用率は2.41%で、いずれも過去最高となった。雇用数は22年連続で伸び続けている。

8年7月からは、法令で企業に雇用を義務付ける割合も2.5%から2.7%へ引き上げられた。

企業の障害者雇用を組織マネジメントの視点から支援する「障害者雇用ドットコム」の松井優子代表は「制度によって、障害者雇用は着実に進んでいる」と指摘する。

しかし、数字が実情を表しているとは言い難いのも事実だ。

「数を達成することが第一目標になっている企業もある。これからは雇用するだけでなく、どう活躍し、能力を発揮してもらえるのかを問われる時代になった」

子育て、介護、通院…。企業が勤務時間や働く場所を柔軟に選べるようにするなど、さまざまな事情を抱えた人々が働きやすい仕組みづくりも広がっている。

松井氏は「勤務時間や働き方などの選択肢を増やし、違いを含めて仕事を設計することが大切だ」と話す。

誰もが老い、病にかかる

社会生活に目を向けると、さらに課題が浮かび上がる。

たとえば、バスの乗降だ。ドライバーが車いす用のスロープを設置してくれるが、停車位置によっては柱などが乗降を妨げ、バスを再度動かしてもらわなければならないこともある。運転手や他の乗客を待たせてしまうことに、男性は「申し訳なさを感じる」と話す。

駅にはエレベーターが設置されているが、場所によっては駅構内の端にあり、回り道をしなければならない。歩けば数分で済む移動に、車いすでは時間もかかる。

国土交通省によると、公共交通機関のバリアフリー化(6年度末時点)は、列車や路面電車など

鉄軌道車両が62.7%、ノンステップバスが72.1%と道半ばだ。

男性は語る。「全てを変えるのは難しいと思う。でも困っている人がいたら、お互いに助け合うことはできる」

誰もが老い、病にかかる。負担の解消は決して人ごとではない。

 

⇒記事① つながれていく「命のバトン」 鼓動の響きに誓った天職 心臓病乗り越え薬剤師に

⇒記事③「生きることが自分の使命」 移植医療の実情伝える 病院の受け入れ体制整備を

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