「生きることが自分の使命」 移植医療の実情伝える 病院の受け入れ体制整備を
2026.9.24
産経新聞 令和8年9月24日配信
国内外の心臓病に苦しむ子供たちを救う「あけみちゃん基金」(産経新聞厚生文化事業団運営)は設立から60年を迎えた。基金の支援を受け、薬剤師として働くようになった男性の歩みをたどり、バリアフリーや移植医療が抱えている課題を考える。
拡張型心筋症との闘病の末に心臓移植を受けた男性(27)は、移植を「命のバトン」と表現する。命を託してくれたドナーの思いを胸に、移植医療の大切さを伝えていく。
厳しい闘病生活と移植待ちの日々を経て、新たな人生を歩めるようになった背景には、顔も名前も知らないドナーと家族による決断があった。
男性は「移植は、見方によっては『命を奪っている』と、ネガティブな印象を持たれる方もいると思う」と話す。
しかし、見方を変えるとポジティブにも捉えることができる。心臓病で失われるはずだった命が、ドナーと家族の決断によって、つながる。救われる命がある。
「聖火ランナーのようにバトンを受け取り、今生きている。だからこそ、この命の炎を絶対に消してはいけない」
男性にとって移植は、単に病気を治すための手段ではない。引き継いだ命をどう生きるか。向き合い続けることでもある。移植を経験し、当たり前だった日常の意味も変わった。「生きていること」が誰かの決断の上に成り立っている。

男性は今年に入り、臓器移植の支援や啓発をするNPO法人「トリオ・ジャパン」で、闘病生活や移植医療を伝えるため、活動を始めたという。
「受け取った命に自信を持って、まっとうに生きたい。それがドナーやご家族への恩返しであり、自分の使命だと思っている」。男性はこう語る。
移植によって命がつながる一方、臓器提供をめぐっては、意思表示の普及や家族との共有、医療を担う人材の確保などが課題となっている。男性は「日ごろから移植について考える機会があることが大切だと思う」と話すが、課題は残る。
国内で臓器移植を待つ患者は約1万7000人に上るが、令和7年に実施された移植手術は636件にとどまった。
この年の内閣府の調査によると、脳死や心停止で死亡と診断された際に「自身の臓器を提供したい」と回答した人は42.5%。「家族の臓器提供の意思を尊重する」と答えた人も92.1%に上った。
一方、臓器提供について「意思表示をしている」と回答した人は19.9%にとどまった。このうち、家族や親しい人と臓器提供について「話したことがある」とした人は9.7%で、10.2%は「話したことがない」と回答した。

海外と比較しても、日本の臓器提供の少なさは際立つ。国際的なデータベース「IRODaT」によると、2024(令和6)年の人口100万人当たりの心停止・脳死ドナー数は、日本が1.13人だったのに対し、スペインは53.93人、米国は49.70人だった。
しかし、希望はある。国内の臓器提供数は、近年の意識改革や診療報酬改定によって緩やかではあるが、増加傾向にあるからだ。
国内の臓器移植医療が抱える課題について、日本移植学会理事長で東京大病院の小野稔教授は「医療現場における基本医療としての移植の体制づくりや医療者教育などが不足している」と指摘し、呼びかけた。
「尊い善意を確実な救済へと結実させるためには、病院側の受け入れ体制を整えることが不可欠だ」