産経新聞 令和5年3月21日配信
重い心臓病を抱えて移植を待つ子供たちは、容体急変のリスクを抱えながら、入院生活を送っている。限られた空間で過ごす毎日。移植待機が長期にわたるケースも多く、患者家族らも大きな不安を胸に病院療養を支える。明日への希望に-。あけみちゃん基金の財政支援はそんな思いを乗せ、各家庭に届けられている。しかし、支援する数が多いということは、それだけ患者や家族が苦難の道を歩んでいることの裏返しでもある。病と闘う子供たちに対する社会の理解の進展は、その命を救うための一助になるはずだ。
届いたメールと写真、写っていたのは…
基金を運営する産経新聞厚生文化事業団に1通のメールが届いたのは昨年夏。数枚の写真が添えられていた。あどけない表情の少女と、彼女が作り上げたというブロックのお城…。
写真に写るのは、国立循環器病研究センター(大阪府)で心臓移植を待つ滋賀県の女児(9)。基金の財政支援を受け、入院中の娘におもちゃを購入できたことを喜ぶ母親からの感謝の便りだった。
元気に過ごしてきた毎日が一変したのは幼稚園卒園が近づいた令和2年1月のこと。突然の嘔吐(おうと)。意識を失い、救急搬送された病院で「特発性拡張型心筋症」と診断された。
その後も容体悪化に歯止めがかからず、転院先の国立循環器病研究センターでは一時、人工心肺装置が必要になった。小児用補助人工心臓「エクスコア」装着後も別の問題が判明し、改めて手術に臨むなど、小さな体は多くの苦難にさらされた。
新しいおもちゃ
両親と祖母、3つ年上の兄と離れての入院生活は今年、4年目を迎えた。エクスコアの駆動装置と心臓の動きを助けるポンプの管は常につながり、半径2メートルほどの範囲しか動くことができない。
1日の大半をベッド上で過ごし、もっぱらの遊び相手は、自宅から届けられたなじみのおもちゃたち。ぬいぐるみでごっこ遊びをしたり、折り紙をしたり…。
ただ生活は単調になりがちだ。遊びの幅を広げてやりたいと、「ぬいぐるみの服を縫って届けることもある」と母。目先の変わった新しいおもちゃを買ってやりたい思いもあるが、家の経済状況を考えれば、踏み切れずにきた。
自宅から病院までは電車と自転車で片道2時間弱。毎日の面会のために購入する定期券代は半年分で20万円近くかかるなど出費はかさむ。生活を切り詰める中で届いた基金からの財政支援に、背中を優しく押してもらった気がした。
思い切って、娘が欲しがっていたレゴブロックや人形の家などを購入した。「退院するまでは」と、家族で外食や遊びにいくこともなくなった日々を黙って受け入れてくれている長男を、念願の高校野球の甲子園観戦に連れていくこともできた。
憧れる学校生活
基金の支援は我慢を強いることも多い子供たちの日常に彩りを添えてくれた。レゴをもらった娘は組み立てに没頭し、一気にお城を完成させた。「支援をいただけたことはもちろん、応援してくださる方々が寄せてくれた思いが何よりありがたく、うれしかった」。母は涙を浮かべる。
女児の夢はバレエの先生。最近は「高校生になりたい」と学校生活への憧れを口にすることもある。
感染症や血栓のリスクは常に隣り合わせで、容体急変への不安が消えることはない。それでもきっと、元気になる。希望をつむぎ、移植の日を待っている。
